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絵画療法と作品

絵画療法と作品

絵画療法

絵画療法、手探りのスタート

見晴学園で絵画療法を始めたのは、1995年のことです。
利用者さんの日中活動を豊かな時間にする試みの一つとして絵画に取り組んだらどうかと考えていた時に、当時の施設長から、画家の落合英男先生を紹介されました。
落合先生からは、最初に4つのことを教わりました。

  1. 絵を描く行為、その作業の一つ一つを療法としてとらえ、どう支援に生かせるかを考えること。
  2. 利用者の特性と画材の選択について研究し、多くの引き出しを持つこと。
  3. 集団で参加する際の利用者へのかかわり方について研究し、お互いが楽しめること。
  4. 支援内容の記録と作品展の開催、その意義について利用者の立場で考えること。

その意味をはじめは充分に理解できず、時々、藤枝市にある先生のアトリエを訪問して学び、先生にも年4回、指導に来てもらって、週に1回(1回2時間)、絵画療法の時間を設けることからスタートしました。

今でこそ、利用者さん個々の特性や画風に合った画材や姿勢など、活動の体制が確立されてきましたが、はじめた当時は、利用者さんの創作経験や本人に合った創作方法は、家族に聞いてもわかりませんし、重度の知的障がいがある人、手先がうまくはたらかない人もいて、絵画の専門教育を受けたわけではない私たちに何ができるんだろう…と思い悩む毎日でした。
絵筆を投げたりなめたりする人、座っていられない人、紙を破いてしまう人、居眠りしてしまう人など、てんやわんやです。

そのうち、一人の利用者さんが、見たこともない色使いと形で、集中して作品を生み出だすようになります。
鉛筆は芯のやわらかさや太さをいろいろ試し、ペンは水性、油性で太さや滑らかさの違うものを試し、紙の大きさも八つ切りサイズから40号の大きなサイズまで、机に置いたり、座って描ける高さにしたり、立って描けるイーゼルに置いたりしているうちに、利用者さん自身が画材を選び、自然に独自の画法を確立していったのです。
その作品は、誰かの真似ではなく、奇をてらった表現でもない。自身の中にあるイメージを形にしたのであろう純粋な表現で、見る人を圧倒しました。
自らの感情を、イメージを、一心不乱に描いた絵の中で、線・色・形という絵を構成するすべての要素が「私はこうだ!」と何よりも利用者さんのことを雄弁に語りかけてくるようでした。
この時の感動は、今も、私たちが支援を続けるモチベーションになっています。

利用者さんと支援者の表情が輝く時間

絵画療法をはじめて、何よりも良い変化が見られたのは、利用者さん一人ひとりの表情が良くなったこと。
重度の障がいがある人たちにとっては、自由な時間、余暇、というのは、実は、何をしたらいいのかわからない、不安を感じたり退屈したりする「不自由な時間」。言語理解力が十分でない場合、本やテレビで楽しむ、ということにも限界があります。でも絵を描くという行為は、言葉がなくても、手など身体的な作業能力が十分でなくても、一人ひとりに合った画材、画法、姿勢を見つけることで、誰もが楽しめます。

絵画療法で五感が刺激され、感情が解放されていく利用者さんの姿を見るのは、支援する側にとっても大きな喜びです。
一人ひとりの内面が溢れ出る絵画作品は、「障がいのある人が描いたから」というような贔屓目どころか、「自分には到底描けない! なんてすごい才能なんだろう!」とうらやましくなる、すばらしいものばかりなのです。
利用者さんの知らない側面に驚いたり、感動したり。
言葉はなくても、支援する側と利用者さんの間に阿吽の呼吸が生まれ、双方が楽しんでいる穏やかな時間。それが絵画療法の時間です。

絵心ゼロの支援員が絵画療法を担う意味

「アート」「絵画療法」というと、「絵心ゼロなのに、人に教えるなんて…」と尻込みしてしまうかもしれませんが、アート活動の支援に必要なスキルは、実は、日頃、障がいのある方の支援をしている時のスキルと同じです。
利用者さんのそばにいて、どんな色、感触が好きか、何をしている時が楽しいのか、などをひたすら観察し、その人に合った環境を整える。手出しやアドバイスはしない。傍らにいて、過ごしやすい机や椅子の大きさや高さを調整したり、画用紙を用意したり。必要最低限の支援だけをするのです。

  • 目が見えなくなった利用者さん。毛糸を画用紙に貼って輪郭を作ると、「緑」「黄色」と記憶の中の色を支援員に伝えてクレヨンを渡してもらい、手の感覚で輪郭をとらえ、思い描く色で塗っていきます。

  • 絵筆や色鉛筆などを持って描くのが難しい利用者さん。指を使ってとんとん、ぺたぺた。支援員と微笑み合いながら描いていきます。

絵画療法ができる支援員を増やしていく試み

絵画療法を取り入れている、取り入れたい、という福祉施設が各地で見られるようになりました。ただ、絵画には疎いので…と担当してくれる支援員がいない、絵画療法の担当者がいない日には絵画療法のプログラムが提供できない、という声もよく聞きます。
そこで、静岡県知的障害者福祉協会の事業として、令和5年度末までに9人の「文化芸術活動コーディネーター」を養成し、2024年、「アートでひろがる支援講座」を開講しました。
見晴学園には文化芸術活動コーディネーターが3人いて、他の支援員にそのノウハウを継承しています。
こうして、支援員の絵画療法のスキルをアップし、利用者さんが安心して制作に取り組める絵画療法を、1995年から30年近く続けることができたのです。

絵画展をはげみにする人、黙々と描く人

絵を描くことを、「絵画療法」「アート活動」と思っている利用者さんはいないでしょう。彼らにとって絵画療法の時間は、「あの時間」=それぞれ好きな画材で、好きな大きさの紙に、楽な姿勢で、支援員と対話しながら、時に歩き回ったりソファでごろんと休んだりしながら、ぐるぐる、さっさっ、とんとんとん、と、色を、線を、形を描く、楽しい時間。そんなイメージなのだと思います。
年に2~3回、絵画展を開催したり、外部の絵画展に出展したりするようになり、賞をもらう人も増えてきました。それをはげみにする人もいれば、そんなことはおかまいなしに、「あの時間」をただただ穏やかに楽しく過ごす、という人もいます。活動への参加も自由です。

活動を続けていくと、継続力や画材の選択力、自ら取り組む力が身につき、その変化は、絵の中に鮮明に現れます。丁寧で、目的意識・意図を感じる形・線が多く見られるようになってきます。
反対に、意欲が持てず活動から離れる人たちもいますが、そんなときには基本に立ち返り、絵画療法以外の時間の利用者さんの様子も観察しながら一人ひとりの気持ちや得意なことを汲み取り、試行錯誤し、利用者さんに寄り添った環境を一緒に作っていけるよう、支援する側の技術を底上げしていきます。
良い創作物を生み出すことが目的ではなく、利用者さんが楽しめる環境、時間を作り出すことが目的なので、無理はさせません。
落合先生に教わった、「一つひとつの行為が療法。支援にどう生かすか」
ということばを日々思い浮かべながら、今日も利用者さんの傍で見守ります。

【愛護ギャリラー展】

静岡県には、静岡県知的障害者福祉協会(当時名:静岡県精神薄弱者愛護協会)が発足した「愛護ギャリラー展」があり、2023年に30周年を迎えました。見晴学園の利用者さんも度々受賞しています。
県全体に絵画療法が広がり、いつか本当のギャラリーで彼らの作品を常設展示できたら…。県外、国外にも広がっていったら…。夢は尽きません。

【アートでひろがる支援講座】

令和6年度、6月・10月・2月の年3回開講予定です。

アートでひろがる支援講座

講座への参加者募集は、InstagramやFacebookで随時ご案内します。
ぜひご参加ください。

作品

障害者向けの絵画展だけでなく、一般の絵画展でも受賞!

利用者さんの絵は、知的障害者の方を対象とした「愛護ギャラリー展」だけでなく、一般の方から広く応募される「三島市美術展」で受賞したこともあります。見晴学園アーティストの作品。一部ですが、ご紹介します。

Art

M.O.さん 1968年生まれ

重度知的障害がある方です。小さな丸を画用紙一面に描く現在の画法は2015年頃から。M.O.さん独自のスタイルです。色の濃さの違う鉛筆を提供した事がきっかけで描き始めたのですが、鉛筆から色鉛筆・マーカーなど様々な画材を使用することで、よりオリジナリティの高い作品になりました。
施設の庭に咲いている河津桜の木を見て描くなど、感性豊か。歳を重ねるごとに、描く丸の大きさが大きくなってきました。
最近では絵画療法の時間だけでなく、休日や夜間などの余暇時間に、自室で黙々と大きな作品の制作に取り組んでいます。制作中は声をかけがたいほど、画家オーラを放っています!

M.O.さん

T.S.さん 1971年生まれ

ダウン症・重度知的障害のある方です。T.S.さんが描く絵を初めて見たのは、建て替え前の施設でのこと。自室の壁にできたシミに沿って複数の色のボールペンを走らせ、壁いっぱいにカラフルな模様を描き切った不思議な作品でした。残念なことに、その絵の描かれた壁も写真も残っていないのですが、とても迫力がありました。
最近の画法は、油性サインペンでぐるぐると円を描くように形を構成していくスタイルです。大きな紙を一緒に用意して、イーゼルにセットして描いていきます。
使う色はT.S.さんがその都度決めていて、支援員が提案しても一切受け付けてくれません…。ご本人の中に、絶対に譲れない、その時そこに使う色があるようです。

M.W.さん

M.W.さん 1973年生まれ

重度知的障害・自閉症のある方です。愛護ギャラリー展受賞作品は、瓶の底に絵の具をつけて描いた作品ですが、クーピーやクレヨンを使って丁寧に着色された作品もM.W.さんのスタイルの一つです。
M.W.さんの感性による色選び、レイアウト、バランスは絶妙。ひとたび制作を始めると、繰り返し繰り返し、集中して作業を進めていきます。
優しく抜けた感じのテクスチャーから、絵の具を塗り重ねて盛り上がるほどの重厚なテクスチャーまで、豊かな感性で幅広い表現の作品を生み出していきます。

T.S.さん

ご紹介した作品以外にも、個性豊かで心打たれる作品が、日々、たくさん生まれています。
各地のアート展で展示されますので、ぜひ原画を見に来てください。
展示のご案内は、InstagramやFacebookで随時お知らせします。

絵のレンタル、オリジナルグッズへの使用などのご希望がございましたら、ぜひご連絡ください。

 

見晴学園アーティストの作品は、Instagramで随時紹介していきます。ぜひご覧ください。